大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(ワ)6773号 判決

○当事者

原告

ライトインキ株式会社

右代表者代表取締役

中村忠治

右訴訟代理人弁護士

松井健二

伊藤正昭

被告

株式会社ライトインキ

右代表者代表取締役

新田清

右訴訟代理人弁護士

菊地政

増沢照久

○主   文

一 被告は、東京都墨田区東両国一丁目二番地篠崎インキ製造株式会社に対し、別紙目録(1)から(17)記載の連合商標にかかる各商標権並びに同目録(18)及び(19)記載の各商標権につき、それぞれ二分の一の共有持分の移転登録手続をせよ。

二 訴訟費用は、被告の負担とする。

○事   実

第一 当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二 当事者の主張

(請求原因等)

原告訴訟代理人は、請求の原因等として、次のとおり述べた。

一 篠崎インキ製造株式会社と被告とが、昭和三十一年八月二十日、同会社は、被告に対し、篠崎インキ製造株式会社の有する別紙目録(1)から(10)記載の連合商標にかかる各商標権及び同目録(18)、(19)記載の各商標権(以下、本件各商標権という。)並びにその他の商標権(以下、その他の商標権という。)を、その営業とともに譲渡することとし、右に関し、両者間に、「(一)譲渡代金を金五百万円とし、右金員の支払いについては、被告は篠崎インキ製造株式会社に対し、本件各商標権の移転登録手続完了の時から一年据置き、二年目から被告の毎月の販売額の二パーセントずつを分割して支払う。(二) 前記その他の商標権については、直ちに、被告に対して移転登録手続をし、本件各商標権については、原告が篠崎インキ製造株式会社から譲り受けたものとして原告名義に登録手続がされているが、原告の右譲受けは無効であり、本件各商標権は、篠崎インキ製造株式会社の有するものであるから、同会社において、右原告名義の登録手続の抹消登録手続をしたうえ、被告に対し移転登録手続をする。」旨の営業譲渡契約を締結し、篠崎インキ製造株式会社は、右約定に従い、直ちに被告に対し、前記その他の商標権につき、移転登録手続を了した。

なお、原告は、右営業譲渡契約前において、別紙目録(1)から(10)の各商標権が原告名義に登録されていたところから、これらの登録商標の連合商標として、新たに、商標登録出願をし(別紙目録(11)から(15)記載の商標権に該当するもの)、昭和三十二年八月九日、原告名義をもつて、別紙目録(11)から(14)記載の各商標権の、昭和三十三年一月三十日、原告名義をもつて、別紙目録記載の商標権の各設定の登録を受けた。

二 被告は、昭和三十二年、前項の商標権譲渡の契約に基づき、原告及び篠崎インキ製造株式会社を被告として、東京地方裁判所に対し、商標権譲渡登録抹消登録手続請求の訴(同庁昭昭三二年(ワ)第六、八六七号)を提起したが、昭和三十四年三月七日、右当事者間に、「(一) 篠崎インキ製造株式会社は、同会社の原告に対する(1)から(15)、(18)及び(19)の各商標権の移転登録手続の抹消登録手続をするとともに、被告に対し、右商標権の移転登録手続をする。(二) 被告は、原告に対し、右商標権の二分の一の持分を被告の大阪府他一府二十県に及ぶ営業とともに、金七十五万円をもつて譲渡する。」旨の裁判上の和解が成立した。

しかして、(1)から(15)、(18)及び(19)の各商標権は、右裁判上の和解の成立に先立つて、いずれも、昭和三十四年二月二十一日、原告から篠崎インキ製造株式会社を経て、被告に譲渡され、さらに、同日被告から原告に右各商標権の二分の一の持分を譲渡し、同年四月十六日、右各移転登録手続を了し、前記右裁判上の和解の趣旨に沿う商標権譲渡の手続がされた。

原告及び被告は、(1)から(15)の各商標権がその共有となつた後である同年四月三十日、これら登録商標の連合商標として、新たに、商標登録出願をし(別紙目録(16)及び(17)記載の商標権に該当するもの)、昭和三十五年十二月十五日、原告及び被告両名の名義をもつて、別紙目録(10)及び(17)記載の商標権の設定の登録を受けた。

三 被告は、第一項記載の営業譲渡契約に基づく商標権の移転登録手続の完了の日から二年目の昭和三十五年四月十六日以降毎月の販売額の二パーセントずつの割賦金の支払いをすべきにかかわらず、これが支払いをしなかつたので、篠崎インキ製造株式会社は、被告に対し、同年九月二十一日到達の内容証明郵便をもつて、同月三十日までに右金員を支払うべき旨催告するとともに、同日までにその支払いをしないときは、前記営業譲渡契約を解除する旨の停止条件付契約解除の意思表示をした。しかるに、被告は、所定の期日を経過しても、その支払いをしなかつたから、前記契約は、同年十月一日、解除となつた。

しかして、右契約が解除となり、(1)から(10)の各商標権につき、被告は、その現に有するこれらの商標権の二分の一の共有持分を、篠崎インキ製造株式会社に対し返還すべき義務ある以上、これと連合商標の関係にある(11)から(17)の各商標権についても、これら商標権の二分の一の共有持分を同会社に対し返還すべき義務があるものである。

四 原告は、昭和三十七年六月三十日、篠崎インキ製造株式会社から、前記契約解除に基づき同会社が取得すべき(1)から(19)の各商標権の二分の一の持分を金百五十万円にて譲り受けたので、同会社に対して右各持分の移転登録手続請求権を有する。

五 よつて、原告は、原告の篠崎インキ製造株式会社に対する前記各商標権の二分の一の持分の移転登録手続請求権を保全するため、同会社に代位して、第三項記載の契約解除に基づく同会社の被告に対し有する(1)から(19)の各商標権の二分の一の共有持分の移転登録手続を求める。

六 被告主張の抗弁事実は、否認する。

(答弁等)

被告訴訟代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

一 請求原因第一項の事実中、(一)の譲渡代金等に関する約定は、否認するが、その余の事実は認める。

二 同じく第二項の事実は、認める。

三 同じく第三項の事実中、原告主張の日、その主張の内容証明郵便が到達したことは、認めるが、その余の事実は否認する。

四 同じく第四項の事実は、知らない。

(抗弁)

五 仮に、被告が篠崎インキ製造株式会社に対し、昭和三十一年八月二十日の営業譲渡契約に基づく代金債務を有していたとしても、被告は、被告と篠崎インキ製造株式会社との間において、右債務を合意のうえ消滅させ、あらためて、被告と原告及び篠崎インキ製造株式会社との間において、原告主張の裁判上の和解を成立させたのであるから、原告の請求は、失当である。

第三 証拠関係≪省略≫

○理   由

(営業譲渡契約について)

一 昭和三十一年八月二十日、篠崎インキ製造株式会社と被告との間に、同会社は本件各商標権((1)から(10)の各登録商標は、連合商標である。)及びその他の商標権を、その営業とともに、被告に譲渡し、右その他の商標権については、直ちに移転登録手続をし、右その他の商標権については、直ちに移転登録手続をし、別紙目録(1)から(10)の各商標権については、原告が篠崎インキ製造株式会社から譲り受けたものとして、原告名義に登録手続がされているが、原告に対する右譲渡は無効であり、右各商標権は、篠崎インキ製造株式会社の有するものであるから、同会社において、原告名義の登録手続の抹消登録手続をしたうえ、被告に対し移転登録手続をする旨の約定が成立したことは、当事者間に争いがない。

しかして、成立に争いのない甲第一号証によれば、前掲右営業譲渡の代金は、これを金五百万円とし、その支払いについて被告は、篠崎インキ製造株式会社に対し、本件右商標権の移転登録手続完了の時から一年据置き、二年目から被告の毎月の販売額の二パーセントずつを篠崎インキ製造株式会社に分割して支払う旨の約定が成立したことを認めうべく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(商標権の移転登録手続について)

二 原告が前記営業譲渡契約に先だち、別紙目録(1)から(10)の各商標権の登録名義人としてこれら登録商標の連合商標として新たに商標登録の出願をし、昭和三十二年八月九日、同じく(11)から(14)の各商標権の、昭和三十三年一月三十日、同じく(15)の商標権の各設定の登録を受けたこと、被告が、昭和三十二年、原告及び篠崎インキ製造株式会社を被告として、東京地方裁判所に対し、原告主張の訴(同庁昭和三二年(ワ)第六、八六七号訴訟事件)を提起し、昭和三十四年三月七日、右当事者間に、原告主張の内容の裁判上の和解が成立したこと、本件各商標権が、いずれも、同年二月二十一日、原告から篠崎インキ製造株式会社を経て被告に譲渡され、さらに、同日被告から原告に右各商標権の二分の一の持分が譲渡され、同年四月十六日、右各移転登録手続を了し、右裁判上の和解の趣旨に沿う商標権譲渡の手続がされたこと、並びに、原告及び被告は、同月三十日、別紙目録(1)から(15)の各商標権の共有者としてこれら登録商標の連合商標として、新たに、商標登録の出願をし、昭和三十五年十二月十五日、別紙目録(16)及び(17)の各商標権の設定の登録を受けたことは、当事者間に争いがない。

(営業譲渡契約に基づく債務は消滅したかどうか。)

三 被告は、被告と篠崎インキ製造株式会社との間において、合意のうえ、前記営業譲渡契約に基づく代金債務を消滅させ、あらためて、被告と原告及び篠崎インキ製造株式会社との間に、前記裁判上の和解を成立させた旨主張するが、(中略)右主張事実を認めるに足る証拠はない。

したがつて、被告は、篠崎インキ製造株式会社に対し、前記営業譲渡契約に基づく代金支払いの債務を負つているものといわなければならない。

(契約解除について)

四 篠崎インキ製造株式会社と被告との間に、代金を五百万円とし、被告は篠崎インキ製造株式会社に対し右代金を本件各商標権の移転登録手続完了の時から一年据え置き、二年目から被告の毎月の販売額の二パーセントずつを分割して支払う旨の約定が成立したこと、篠崎インキ製造株式会社が、右契約の履行として、別紙目録(1)から(10)の各登録商標の連合商標として後に登録された(11)から(15)の各商標権をも含めて本件各商標権につき昭和三十四年四月十六日までに被告名義に移転登録手続を了したことは前記認定のとおりであるから、被告は前記約旨に従い昭和三十五年四月十六日以降篠崎インキ製造株式会社に対し右譲渡代金を分割して支払うべき義務あるにかかわらず、被告が右譲渡代金を約旨に従つて支払つたことを認むべき証拠はなく、右債務の不履行を理由に篠崎インキ製造株式会社が、被告に対し、同年九月二十一日到達の内容証明郵便をもつて、同月三十日までに、右代金の支払いを催告するとともに、右期日までに代金の支払いがないときは、右契約を解除する旨の停止条件附契約解除の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。しかして、被告が右催告に応じ篠崎インキ製造株式会社に対し、昭和三十五年四月十六日以降被告の毎月の販売額の二パーセントずつを分割して支払つたことについては、何らの主張立証もないから、右契約は、同年十月一日、条件成就により解除されたものというべきである。したがつて、被告は、篠崎インキ製造株式会社に対し、被告が現に有する本件各商標権の二分の一の共有持分を返還すべき義務あるものといわなければならない。

しかして、別紙目録(11)から(15)の各商標権は、原告において、前記篠崎インキ製造株式会社と被告との間の営業譲渡契約に先立ち、(1)から(10)の各登録商標の連合商標として登録出願をし、(11)から(14)の各商標権については、右契約後の昭和三十二年八月九日、(15)の商標権については、昭和三十三年一月三十日、原告名義をもつて、商標権の設定の登録を受けたこと、並びに(16)及び(17)の各商標権は、前記裁判上の和解に基づき、(1)から(15)の各商標権が原告及び被告の共有となつた後、原告及び被告において、これら各登録商標の連合商標として登録出願をし、前記営業譲渡契約解除の後、原告及び被告両名の名義をもつて、商標権の設定の登録を受けたが、連合商標の登録により商標権が発生しても、この商標権は、連合商標にかかる他の商標権と分離して移転することができず、法律上、連合商標にかかる各商標権は、権利主体を同一にすることによつてのみ併存することが許されるのであるから、各商標権は、基本となるべき商標権を中心に不可分の関係にあるものというべく、このような商標権が契約解除により元の権利者である篠崎インキ製造株式会社に復帰すべきものである以上、これと連合の関係にある商標権もまた、基本となるべき商標の権利者である同会社に帰属すべきものと解するを相当とすべく、したがつて、被告が、契約解除の結果、さきに登録された(1)から(10)の各商標権を篠崎インキ製造株式会社に返還すべき義務ある以上、のちに、これと連合商標の関係にあるものとして登録された(11)から(17)の各商標権の二分の一の共有持分についても、また、これを同会社に対し返還すべき義務あるものといわなければならない。

(原告篠崎インキ製造株式会社に対する債権について)

五 (証拠―省略)並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告は、昭和三十七年六月三十日、篠崎インキ製造株式会社から、前記営業譲渡契約の解除に伴い、同会社の取得すべき別紙目録(1)から(15)、(18)及び(19)の各商標権の二分の一の持分を譲り受けたことを認めうべく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。したがつて、篠崎インキ製造株式会社は、原告に対し、右商標権の二分の一の共有持分につき、これが移転登録手続をすべき義務あるものといわなければならない。

しかして、右認定事実によれば、原告が譲受けの契約をしたのは、篠崎インキ製造株式会社が被告から返還を受けるべき前記(1)から(19)の各商標権(けだし、二分の一の共有持分)のうち(1)から(15)、(18)及び(19)の各商標権(ただし、二分の一共有持分)についてであるが、その余の(16)及び(17)の各商標権(ただし、二分の一の共有持分)についても、これが(1)から(15)の各登録商標と連合商標の関係にあるのであるから、他に特段の事情の認められない本件においては、前段説示の理由により、右(16)及び(17)の各商標権をも譲り受けたものというべく、したがつて、篠崎インキ製造株式会社は、原告に対し、(16)及び(17)の各商標権の二分の一の共有持分についても、(1)から(15)の各商標権の二分の一の持分とともに、これが移転登録手続をすべき義務あることはいうまでもない。

(むすび)

六 以上説示のとおりであるから、原告がその篠崎インキ製造株式会社に対する前記債権を保全するため、同会社に代位して、被告に対し、主文第一項掲記の各商標権の二分の一の共有持分につき、その移転登録手続を求める原告の本訴請求は、これを認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官 三宅正雄 裁判官 武居二郎 裁判官 白川芳澄)

目   録(省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!